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サステナビリティ通信 【 熊本サミット 】

令和8年熊本地震で被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。

40℃近い猛暑のなかでの被災は、今まで誰も経験したことの無い、非常に危険な事態です。災害関連死という犠牲者を少しでも出さないために、国、県、市町村、企業、国民の総力を挙げた取り組みが必要です。

中近東の暑さにも匹敵する日本の夏。もはや四季が織りなす美しい国から、冬と夏、猛暑の3シーズンの国になるのではという不安を感じます。こうした気温上昇や激甚化した災害が脅かすのは、人間の暮らしや命だけではなく、自然界の生き物もまた同じであり、実に世界では5万種近い生き物たちが存続の危機に晒されています。今回は、「自然生態系と生物多様性が、私たちの暮らしやビジネスにどのように影響するか」について考えてみたいと思います。

 自然生態系はサステナビリティの産物

46億年という長い歳月をかけて地球は変容を続け、現在に至りました。その歴史の中で、現在約170万種いるとされる生物は、自然界の様々な変化に適応し、存続してきた「戦友」とも言える仲間たちです。人間にも様々な肌の色、目の色、言語などの人種がありますが、ヒトは「種」としては一つに過ぎません。その人間が、他の多くの種を存続の危機に追いやっているのが近代史以降の地球の実態と言えます。

IUCN(国際自然保護連合)というスイスの国際調査機関が、全世界で実施する調査結果に基づいて、種の状況を評価し、調査、発行するレポート「レッドリスト」の最新版が今年の7月に公開されました。
それによるといま現在、4万9,505種もの野生生物が、絶滅のおそれが高いと報告されており、絶滅を危惧される種は、21世紀に入ってから、それまでの4.4倍にまで急増しています。

人間は上下水道を整備し、冷暖房機器などを用いて適応力を高めてきましたが、野生生物は産業革命以降の環境変化や汚染に適応することができず、絶滅の危機へと追いやられてしまうのです。野生の生き物がどういう状態になろうとも、私たちの暮らしやビジネスには殆ど影響がないように思われがちですが、はたして本当にそうでしょうか?

 自然生態系からの学びとビジネ

46億年かけて形づくられた「自然の摂理」は、私たちが自然から学ぶ知識の宝庫です。それらをビジネスに生かすことで、私たちは様々な医薬品や工業製品、食品や飲料などを開発してきました。
このように自然界の摂理を学び、活かす学問を“バイオミメティクス=Biomimetics/生態系からの学び”と言います。ネコの目からカメラの絞り機能が開発され、毛虫の動き方からキャタピラーが考案され、蜘蛛の巣はインターネットの原型として世界の情報通信システムを一変させました。こうした自然の中で得た知識の応用は科学技術を進歩させ、リスクを低減し、ビジネスのヒントを限りなく生むのです。

人間の生態からも学ぶべきことも多くあります。同じ種であるにもかかわらず、小さな違いばかり重視し、同じような人たちだけで集まると、そうでない人たちとの間に対立が生まれます。逆に多様性に富んだ社会では様々な文化や慣習を背景に多くの知恵が共有されます。アフリカの諺に「早く行きたければひとりで行け、遠くに行きたければ仲間と行け」というのがありますが、仲間たちと自然の中で多くの摂理を学び、自然への畏敬の念を忘れず、他の生き物を脅かさない生活の範囲をしっかりと認知すべきなのです。

● 第17回生物多様性条約締結国会議(COP17)に向けた「熊本サミット」

熊本地震の2週間前、生物多様性を論ずる国際会議が熊本市で開かれていました。

「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(熊本サミット)」は2日間で世界中から参加者延べ5千人を集め、そのうち約3分の2を企業や金融関連が占めたことが、大きく報道されました。生物多様性はもはや国家や行政、環境NGOだけの関心事ではなく、企業価値をも左右することが数字からも顕著になったのです。

同サミットで採択された「熊本宣言」には、民間企業41社を含む85の組織が賛同し、事業活動を通じて生物多様性の恵みを理解し、他の生き物たちの生息域を護り、多様性を回復することに共同で取り組むことが合意されました  なぜ熊本市が開催地に選ばれたかといえば、それは熊本市が阿蘇の大自然と調和し、約74万人の水需要を全てその地下水系で賄っている都市だからとのこと。阿蘇山麓の水を水田に張り、徐々に地下へ還す“涵養”で、人と自然が見事に調和してきたのです。しかし近年、その熊本市にもTSMCの菊陽町工場など半導体産業が相次いで進出し、水の需給関係が大きく変わろうとしています。こうした機会に生態系と産業の共生を探ることに、今回のサミット開催の意義があります。

  • 熊本サミットの成果物
    気候変動の緩和策を推進するために、TCFDという取り組みが数年前にはじまり、日本企業の多くも賛同してCO2削減が加速しました。この成功経験から、TNFDという企業を巻き込んだ生態系の回復への取り組みが進んでいます。
    今回の熊本サミットでは、こうした流れを加速し、理念を語る段階から、誰が何を実行したのかを問う段階へと大きく議論が進みました。その成果として注目されるのが「SoN指標」です。
    気候変動ではCO2排出量という物差しがあり、その削減量で企業努力が測れます。生物多様性の再生にも同様の物差しが必要とのことで、“State of Nature”(=自然の状態)を可視化する指標がこの度、新たに作られました。
    これは2020年を基準年とし、そこからの回復分を測る指標群で、生物多様性の回復状況を計測し、評価するツールになるでしょう。既にキリンHD、王子HD、ブラジルのVale、豪州畜産最大手AACo等が、現場でこの指標を用いており、使ってみた感想や課題について、年明けに報告する予定になっています。
  • 水を巡る地域紛争
    すべての生き物は水を必要とします。その水を巡る国際紛争が2000年には20件、2024年にはその12倍の240件にまで急増しています。限りある水を巡って、水を求める多くのステークホルダーが議論する状態は「水ストレス」と呼ばれ、水源の管理や取水の工夫によって需給バランスの回復が必要となります。その段階を超える事態として「水危機」があり、これは水質汚染、干ばつや洪水などで一時的に水の需給バランスが崩壊した状態です。水を巡る紛争が起こり、日常生活が不安定になります。地球では現在、至る所でこうした状態が起きています。

    その先にあるのが「水破産」です。水危機が常態化し、河川や生態系が修復困難な状態になり、ビジネスは廃業に追い込まれ、住民も移住を余儀なくされ、生態系が破綻する事態です。水を巡る紛争の急増は、地球各地で水ストレスが拡がり、水危機から水破産に向かいつつあることを如実に示すものです。 
    日本は比較的、自然の水循環が良好に保たれてきた国ですが、世界のこうした状況を更に悪化させない事業には期待が集まり、海外での水消費に依存する産業は、今後コスト上昇が見込まれるでしょう。

生物多様性を保全することは、人間の多様性も認める基盤をつくり、共存協働を推し進める土壌となります。現在は多くの戦争が起きており、ヒトも自然も野生生物も壊していますが、私たちは地球という故郷を共有する生き物たちと仲良く暮らして参りたいと思います。

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