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SDGs・サステナビリティ通信 【 命の数 】

待ちに待った秋の到来を感じられる、清々しい日が増えてきました、この心地よさを実りの季節として少しでも長続きさせたい、と思うのは、私たち大人はもちろんのこと、酷暑・猛暑で、屋外で遊べなかった子供たち、そして毛皮を脱ぐことが出来ず、散歩もままならなかったペットの動物たちも同様かと思います。

●ニュージーランド政府の驚くべき発表

南半球のオーストラリア大陸に近い島国・ニュージーランド。人口は約530万人と東京都の半分くらいですが、羊は2,360万頭と人口の4.5倍もおり、ラグビーを愛する自然豊かな島国です。そのニュージーランド政府が、この度「我が国の人口は実は6,950億である」と発表したことで話題を集めました。政府はなぜ急に14万倍もの数字を持ち出したのか、、、、、?

それは同国に暮らす様々な命、すなわち羊や牛、鳥や魚など、あらゆる命を人口に加え、数え直したからだそうです。6,950億という数字は凡その推測値ではありますが、人間を圧倒する数の生き物が、私たちと同じ空間に暮らしているという事実を認識してもらおうという、ユニークな広報キャンペーンでした。

ニュージーランドでは現在4,000種もの在来種が絶滅の危機に瀕しており、生態系の63%が崩壊の瀬戸際にあるとのこと。国鳥である「カカポ」(フクロウに似た深緑色の鳥)も僅か238羽にまで激減してしまったそうです。こうして考えると、私たち人間の命は、全体の0.001%に過ぎない超マイノリティであることに気付かされます。ニュージーランドの試みは、国の「人口=命の数」をクリエイティブに定義し、生物多様性の価値を考え直す試みだったのです。

●愛玩動物という社会的存在

そうした考え方は、実は私たちの暮らしの中にも既に浸透しています。それはペットという愛玩用の動物たちの命の重みです。世界の人口が82億人を突破する中、ペットの数は15億頭(匹)に達し、その存在は多くの家庭で家族と同様に大切に考えられています。もはやペットは社会的にも重要な存在であり、私たちの住居や公共交通、商業施設やホテルなどでも、「ペットお断り」と排除し続けることは難しい時代になってきています。ペットの平均寿命は人間より短いので、その終焉にはペットロスと呼ばれる喪失感に苛まれる人も多いのです。

日本では核家族化を経て一人暮らし世帯が増え、前回の国勢調査があった2020年のデータでは総世帯数の38%が一人暮らし世帯と判明しました。少子化や高齢化のみならず、コロナ禍を機にリモートワークも普及し、私たちの暮らし方、働き方が変化するにつれ、ペットはますますその社会的価値を不動のものにしつつあると言えるでしょう。

ペットは人間に対して従順で、可愛らしく、害をもたらさずに飼育しやすい種が選別され、淘汰され続けて数を増やしてきました。いわば人間にとって「都合の良い動物たち」ですので、そのほとんどが親しみやすく、癒しを与えてくれる存在です。

日本における犬と猫の出生数は年間80万頭に達し、人間の赤ちゃんの出生数68万人をすでに上回っています。その恩恵に与ろうとペット産業も成長を続け、今ではドラッグストアやスーパーマーケット、ホームセンターの多くでペット用品コーナーが設けられています。ペット産業は今や2兆円規模に成長し、医療保険や短期預け入れ施設、動物病院のなかには老ペットの介護施設を併設するところも出てきました。共に暮らす生き物を通じて、私たちがその生態を知り、共存するための工夫や寛容さを身に付けることは、人間社会に於いても有益です。お互いに譲り合い、お互いの尊厳を守ることの重要性を喚起するからです。そしてさらに、私たちの生活圏外に暮らす野生の生き物にも関心を寄せ、配慮するようになれば、私たちの命に対する考え方も、もっと柔軟さと優しさを取り戻せるのではないでしょうか。

●バイオミメティクス:生物の多様性から私たちが学べる叡智

ニュージーランド政府が明らかにしたように、人間の命が全体の10万分の1程度であれば、私たちの祖先は残りの99.999%の生き物たちから多くのことを学び続けて来たはずです。それらは私たちがあまり意識していなくても、普段の生活のあらゆる場面で生かされているようです。いくつかその事例をも見てみましょう。

蟻塚の通気性:ジンバブエに建設された複合商業施設「イーストゲートセンター」は、外部の風をうまく取り込むアリ塚の構造から学び、外気を効率よく取り入れ、エアコンの電力コストを従来の10%に抑えています。 

ハスの葉:葉の表面に微細な凹凸とワックス成分をもつ蓮の葉が水分を弾く機能を模倣し、建築塗料、防汚衣料などに利用されています。

サメの肌:表皮の微細な溝が水の抵抗を減らす構造を真似て、飛行機の機体に施されるフィルムや競泳用水着にリブレット加工という名称で活用されています。同様に蝶の羽の構造からヨーグルトが蓋につかないような工夫も生まれています。

蚊の針:血を吸う際に痛みを感じさせない針の構造を模倣し、痛みを抑えた注射針の開発に成功しました。

カタツムリ:木の葉や壁などに自ら吸着して移動する仕組みから、粘着剤や接着テープなどが開発されています。

ハチの巣:六角形の構造体がびっしりと並んだハチの巣の構造は、軽くて丈夫な特性をもっています。これを活用し、段ボールや航空機の構造材、靴のクッション材やスピーカーコーンに応用されています。

カワセミ:くちばしの形状が流体力学上、大変スムーズに抵抗を減らすことから、新幹線のデザインや大型船にも応用され、空気抵抗や騒音低減にも貢献しています。

フクロウ:羽の末端にあるノコギリ状の形状が、飛ぶ際に空気抵抗を減らし静かに獲物に近づくことを可能にしていることから、新幹線のパンタグラフにも同様の構造を取り入れ、騒音を減らしています。

:薄いのに、少し力を入れないと卵の殻は割れません。卵の殻はその湾曲した形状により力を分散しているため強度が高いのです。二枚貝の構造をシェル構造と言いますが、卵のカラも同様です。その一方、中からは弱い力でも殻を割ることができるので、鳥の雛は孵化したら自ら殻を破って出てきます。この構造は、自動車のフロントガラスや、東京ドームなどのドーム型建築、飛行機や潜水艦の前面など、乗り物にも利用されています。

バイオミメティクスはこれからも様々な気付きや示唆を与え続けることでしょう。ノーベル医学賞を授与される坂口教授の制御T細胞もバイオミメティクスのひとつですし、これからも様々な感染症ワクチンや、エネルギー開発まで、人間以外の生き物たちの生きる営みが参考になります。

●サステナビリティ・ジャーニー:脱炭素から人権保護、資源循環、生物多様性の保存へ

サステナビリティは、私たちが子供により良い暮らしを引き継いでゆくための取り組みです。人々が暮らす社会が、安全で豊かなものであり続けられるか、危険で不安定なものになるかは、0.001%に過ぎない人間たちの暮らし方、ビジネスの行い方にかかっています。残念ながらウクライナでも、ガザでも、ミャンマーでもコンゴでも、人間同士の殺し合いは続いていますが、私たちには自分以外の人々の生き方や信条に寛容であり、共存を可能にする智慧を学んできたはずです。

約40億年をかけて自然界で創り出されたデザインや機能を学び取り、他の生き物たちと共存する力。自分が君臨するために他の命を犠牲にしない生き方。そういう生き方を私たちは”noharm”と考えています。

サステナビリティは、人々を戦争から守り、お互いをパートナーとして尊敬しあう暮らしの智慧です。世界には多様な文化や信仰、慣習がありますが、だからこそ私たちは共存共栄に向けて話し合い、平和に暮らす智慧を学びたいものです。

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