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SDGs・サステナビリティ通信 【 地方創生】

今年は6月から真夏日が続き、お彼岸まで健康を維持するのも一苦労です。欧州ではポルトガルで46℃、スペインでは48℃に達し、ニューヨークも38℃を記録しました。気候変動を甘く見た結果、対策が10年以上遅れました。
高温による生き辛さで、若者が将来の希望を失うような事態は、何としても避けなければなりません。
こうした中、「気候正義」という考えから、世界各地で訴訟が起きています。不十分な気候変動対策で最も被害を受ける10~20代の若者たちが、原告団を結成し、行政や発電事業者の法的責任を追及する試みです。科学的な被害予測に基づき、予防原則に基づいて行動することで、これ以上の悪化を食い止められるか、注目したいと思います。
● 都市設計とバックキャスティング
京都や北京、ニューヨークのマンハッタンなど、道路が碁盤の目のように整備され、迷うことなく移動が出来る都市がある一方、無秩序な道路で、緊急車両の行く手を阻む町もあります。都市計画は、現状を起点にするのではなく、将来あるべき姿を描き、そこからバックキャスティング(未来から遡って計画すること)するのが基本です。
国土開発も同様で、ドイツでは政治都市ベルリン、金融センターのフランクフルト、貿易のハンブルグ、製造業の集積地ミュンヘンなど、人口分散や経済安全保障の観点からも機能分散を図り、高速鉄道やアウトバーンで各都市を繋いできました。私たちのビジネスも、最終目標を掲げ、長短さまざまな時間軸の計画に落とし込む必要があります。拙速に着手するよりも、時代の大きな流れを掴み、時には一歩引いて俯瞰し、必要な修正や調整をこまめにしながら実行する。
この「俯瞰と調整」がサステナビリティ思考では大変重要です。
● 地方創生と「ランドスケープアプローチ」
日本の人口動態をみると、「俯瞰と調整」に長けていなかったことが判明します。地方創生はそうした反省の上での再挑戦とも言えます。参議院選挙に立候補する人々には、地元への利益誘導よりも、こうした課題に対し、いかに再挑戦したいのかを真摯に語ってほしいものです。
地方創生には、市や町の単位ではなく、もっと大きな「ランドスケープ(広い景観全体)」構想が必要になります。生物多様性の回復が叫ばれる中、自然保護活動でも、社有林や工場という単体で考えるのではなく、近隣の町を含め、時には県境を跨いでの協働が必要です。それは行政の区分けが、人間都合で作られた人工境界線だからです。
2030年までに国土と領海のそれぞれ30%を保全しようという国際協約「30 by 30」が結ばれ、日本も批准しました。日本の国土面積は37万8千平方キロ(3,780万ヘクタール)ですので、その3割は約1,134万ヘクタール。
陸域では国立公園や県が管轄する国定公園、その他、鳥獣保護区や、保護林などで既に約2割にあたる770万ヘクタールは整備されいますので、残りの1割、約360万ヘクタールを民間企業や個人の森林所有者と協力して保存してゆく必要があります。これを面倒な国際ノルマと考えるか、日本の地方創生に向けたチャンスと見るかで、自ずとアプローチが変わってきます。
● 価値の軸を持った地方創生
岡山県の西粟倉村は、サステナビリティ関係者の多くが注目する成功事例です。村の93%を森林が覆い、その85%をスギやヒノキなどの人口林が占め、人口は1400人程の小さな村ながら、森林の価値を活かすビジョン、「百年の森構想」を軸に様々な取り組みを行い、村外からの移住者を多数招き入れています。
日本は生産労働人口が都市部に流入し、また伐採や輸送経費の高さで林業が衰退してきました。東南アジアからの安価な木材に依存し、今世紀初頭には木材自給率が2割を切るほどに落ち込みました。こうした状況に危機感を抱き、官民で林業復活に取り組み、現在は円安効果もあり、自給率は4割強まで回復しましています。
西栗倉村は岡山県が呼びかけた町村合併に賛同せず、自主存続路線を歩みました。当時の村の財政は苦しく、リスクは大きいものの、700人を超える山主から2600ヘクタールの森林管理業務を一元化して受託する会社が誕生し、そこから出る間伐材を利用して家具などを作る企業や、木屑を培土としたイチゴの養液栽培に取り組む企業など、次々と関連事業が立ち上がり、現在、西栗倉村に生まれたベンチャー企業は62社に達したそうです。移住してきた人は274人に上り、人口の20%を占めます。
養蜂やバイオマス発電などにも着手し、森林資源の価値を村の中に垂直統合することに成功しているのです。原材料として木材を売るよりも、加工や商品化、ブランディングや流通・販売まで手掛けてるのを6次産業化と言いますが、その成功例でもあり、これからも様々な価値創造の道を切り拓いてゆくことでしょう。
地方が持つ自然資本や資源を眠らせず、新しい技術や人材を集めて価値を高めることが、地に足が付いた地方創生です。多様性の強みはこうした場でも発揮されます。埼玉県秩父市の「フォレスト・アドベンチャー」は、森の中で様々な設備や遊具を使って森を楽しむ空間を提供しています。都心からも2時間少々で行け、体力にあまり自信がない人でも日帰りでレンジャー体験まで出来るとあって、大変な人気を博しています。
地方再生には、新しい発想で取り組める人材が必要ですが、無理に居所を移して貰う必要はなく、必要に応じて現地に赴き、あとはリモートで貢献することも技術的には可能です。こうした「関係人口」で実質的に労働人口を調達し、さらに「ふるさと納税」で地域の物産の販路を広げ、新たな投資財源を増やす事例も増えています。
一時的な成功を定着させるまでは、例えば間伐材を活かした事業には10年間、法人税を免除するとか、地元の信用金庫が重機の調達資金を長期支援するなど、役所や金融機関の支援も多様で柔軟になってゆくでしょう。西栗倉村を参考に、特色ある村づくりが広がることを期待します。今までは助成金で施設を建設しながら、維持費も生み出せず、多くの廃墟を生んだ「箱もの行政」とは違い、これからは人と自然が調和して価値を生み出す、持続可能な地域資本の活用を実現してゆきたいものです。
地方創生には地域の持つ様々な価値を客観視し、俯瞰し、組み合わせ、増殖してゆくことが理想です。海岸線をサイクリングできる地方には、自転車を持ち込める部屋を整備し、貸し出し用の工具を揃え、整備や修理が出来るホテルが人気です。またサイクリングにカヤックとトレッキングを組み合わせ、地域の食材や歴史・文化などを学ぶ機会をパッケージ化した「Sea to Summit」というイベントも、スポーツ衣料の「モンベル」が企画・支援し、開催地からも喜ばれています。
多くのステークホルダーを巻き込むことで事業化のトリガーは増えてゆきます。地域資本をブランディングし、それを如何に定着させるかがカギになります。「人的資本経営」は、多様な人々の持つ潜在力を引き出し、成長機会を生み出す営みです。都市部には魅力が溢れており、人口流入は今後も止まらないでしょう。しかし、都市人口を頻繁に逆流させ、サステナブルな消費を喚起し、観光を通じた自然環境整備を推進してゆけば、日本はもっと持続可能に成長します。
投票に行かれる際には、候補者選びの要素に、是非サステナビリティを加えて頂きたいと思います。投票に行かないのは歴史の傍観者に甘んじることです。熱中症対策を怠らず、私たちの一票で変容を起動してゆきましょう。
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