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SDGs・サステナビリティ通信 【 サステナビリティの地域インパクト】

令和の米騒動は人々の一大関心事となり、改めて「食の安定と豊かさ」が、私たちの暮らしの最優先課題であることが証明されました。昔から「腹が減っては、戦は出来ぬ」と言いいますが、「腹が減ると人間は野獣と化す」のが人間の実像であり、食料の奪い合いだけは何としても避けたいと切に願います。小泉進次郎農林水産大臣の、国を挙げての対応策を機に、極東の島国・ニッポンの「食の安全保障」や、「食の生産から流通の在り方」、「農家の暮らしと競争力」などについて、より多くの有権者を巻き込み、議論が深まることを期待したいと思います。
● 食品や観光における「元本」と「利子」
気候変動対策と並行して、急速に見直しが進んでいるのが、企業と「生物多様性」の関わりです。
これはビジネスがどのように自然環境の変化によって影響を受け、また自然環境に影響を与えるかという「依存と影響」の関係を可視化することに始まり、どちらかを守るために他方を犠牲にするという「トレード・オフ」の関係を改め、双方がプラスに作用しあう関係にビジネスのやり方を変革していこうという動きです。
農業や林業、水産業などは豊かな自然環境が安定的に保たれ、農作物、林産物、水産物を採取し、消費する産業という共通点を持ちます。自然環境や野生生物、作物の種子や苗木、幼魚などは預貯金でいえば「元本」に相当し、収穫物はそこから得られる「利子」と言えます。この関係を無視して作物を食べ尽くし、種を絶滅させてしまえば、その作物は二度と食卓に乗りません。元本である自然生態系の再生スピードの中で、資源を管理し、効率よく収量を得るのが持続可能な農林水産業です。
観光業もまた、自然や郷土文化といった地域の共有財産を「元本」に、寺院や紅葉、料理やお祭りといった「利子」を提供するビジネスです。「オーバーツーリズム」で景観よりも人混みを見るようになり、自然環境が侵されれば魅力は半減します。しかし、その地域のユニークな植生や生態を学び、郷土料理やイベントを謹んで楽しむような旅行者は、周囲に口コミを広げたり、「間接人口」となって何度も訪れ、ふるさと納税で支援してくれることも期待できます。こうしたサステナブル・ツーリズムが、世界の人気観光スポットでは、どんどん広がりつつあります。
何が自分たちのビジネスの「元本」かを正しく理解し、その元手を毀損しないよう守り育ててゆくことが、全ての産業において持続的に成功する条件といえるでしょう。
栃木県の名産品「とちおとめ」は海外でも重宝される逸品ですが、これは戦後新たに生み出された「利子」です。コメの裏作として麦や麻に依存する栃木県は、終戦後、麦の価格が下落し、麻も化学繊維に押されて需要が減少するなか、町議だった仁井田一郎氏が栃木に合う農作物を求めて奔走し、イチゴ栽培を導入したのです。
戦前、イチゴ栽培の北限は神奈川県辺りまででした。仁井田町議は自転車にまたがって横須賀までイチゴ農家を訪ね、栃木県に適した品種への改良や、栽培方法を確立しました。公職者としてそのノウハウを惜しみなく共有したことで、多くの農家が競って栽培し、有益な発見を共有することで県内の栽培技術は急速に向上。早期出荷が可能になり、売値は上がり、ハウス栽培等で12月の出荷も可能な「女峰」が登場すると、クリスマスケーキ需要に火が付き、栃木県を苺生産量日本一に押し上げたのです。「元本」を大切に思い、共存共栄を目指したことで、望外の大きな「利子」を育てられたと言えるでしょう。
● 地域の役割と、それを支える地元企業
こうした地域の課題解決に挑む企業は、全国各地に見られます。徳島県で誕生した、移動配達式ス-パー「とくし丸」もそのひとつです。約400品目・1200点ほどの商品を軽トラックに積み込み、買い物に行けない高齢者が多い村や、僻地の施設などを巡回販売するサービスです。住民が高齢化するなか、免許返納を促すだけでは高齢者は孤立してしまいます。2台の軽トラックで始めたこのサービスは、「とくし丸」という名で比較的若い高齢者を、ドライバー兼販売員として雇用し、今では役所の「高齢者訪問サービス」の担当者が相乗りしたり、「特殊詐欺防止」や「防災知識の普及」などで被害の抑止にも一役買っています。移動販売というプラットフォームに地域コミュニティ-サービスを連動させるというアイデアが全国的な普及を後押ししたのです。
今では47の都道府県で140社のスーパーが参加し、約1200台の契約車両が訪問販売に従事しています。地域の課題を敏感に察知し、対応する力は、長年続いてきた事業を頑なに守るのとは対極にあるサステナビリティと言えるかもしれません。
サステナビリティとは守るべきものと、変容しなくてはならないものを巧みに見分け、その両面で果敢に行動することで実現できるのだと思います。
● 社会インパクトを新たな企業評価基準へ
小規模でもサステナブルな事業は無数に育っています。家具や機械などの耐久消費財には「経年劣化」という、時間と共に価値が失われてゆく概念がつきまといますが、一方で「経年優化」を唱える人もいます。ビンテージやアンティークなど、希少なもの、使い込まれて味わいが増した家具や食器もその一例です。また初期不良を克服して円熟期に入った航空機や建設重機など、使うことで信頼性を増すものもあるのです。
私たちは消費する天然資源のうち、僅か1割程度しか、リサイクルや循環利用ができていないと言われます。こうした大量廃棄文明にどっぷり浸かったまま人口が増え続ければ、地球がゴミの山と化すのも当然です。リフォームや古民家の再生は成長産業として進化し続けるでしょう。100年暮らせる家や10年履ける靴、50年乗り続けられる自転車などが新たなステータスシンボルになることも考えられます。
地球から与えられた資源は有限です。再生産のスピードや資源循環の原理を学び、生活に供された食べ物や道具を大切に使い尽くすことが大切です。そしてその後も新たな生命を吹き込むよう、皆で知恵を絞るのがサステナビリティの基本と言えます。
「人は石垣、人は城」は現代の「人的資本経営」ですし、社会に於ける「信用」を重要資産と考えるのも日本の特徴です。それらは脈々と受け継がれてきた精神であり、そこに創意と工夫が加われば、事業は永続的に成長してゆくでしょう。私たちは産業革命以来、200年ほど「物の豊かさ」に魂を奪われてきたかもしれません。しかし、自然環境や社会に対する謙虚さと公益心を取り戻せば、持続可能な社会への修復はまだ可能です。
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