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SDGs・サステナビリティ通信【俯瞰する力】

夕立もゲリラ豪雨となりつつありますが、皆様、いかがお過ごしでしょうか?終戦から数えて来年は80周年を迎えます。パリ・オリンピックで健闘する日本選手を応援しながら、かつて駐在していた国々の選手の活躍にも心が躍りました。

このように合意された、共通のルールに基づいて競うスポーツは、ライバルがお互いを高め合うという効果もあり、結果によって悲喜交々はあるものの、見ていて気持ちのよいものです。日本は80年間近く、平和を維持することが出来ました。その舞台裏では世界情勢に翻弄され、未だ語られていない苦悩や多くの献身があったことが容易に想像できます。

蝉の声に促されるように、靖国神社に参拝してきました。戦死した伯父の慰霊と共に、「お盆」にお供えする御神酒を準備する為です。伯父は25歳の若さで招集され異国で殺し合いを強要されました。国家存亡の危機とはいえ、伯父の心中を慮ると気の毒としか言いようがありません。平和な時代に留学や海外赴任で赴くことが、如何に恵まれた機会であるかを改めて感じます。しかしいま、現実として各地では80年前と同様の殺戮が繰り返されています。人類の愚かさを克服するには、どうすべきか、そんなことを考えさせられる猛暑日の朝でした。

●地球を俯瞰して考える

どの国で、どんな暮らしを送ろうと、私たちの大半はこの地球の上でしか生きられません。7月に公表された国連の人口推計によれば、世界人口は2080年代半ばに103億人でピークに達し、そこからは減少してゆくそうです。

200近くある国や地域の中で、日本やドイツ、中国、ロシアを含む63の国で、既に人口が減少に転じています。現在の82億人から、更に20億人も増えるのは深刻な脅威ですが、ようやく最近になって、資源循環や気候変動対策が社会全体で重視されるようになりました。産業界や金融界が「競争関係」を「共創連携」へ雪崩を打って変われば、人口がピークアウトするまで、何とか地球上で平和に共存することは可能でしょう。そして、それに不可欠となるのが「俯瞰する力」だと思います。俯瞰とは、見渡す範囲を可能な限り拡げて考えることです。

私たちの暮らしや事業は、世界から見れば非常に微細な空間で行われているため、その視野の外の出来事は、見え難く、仮に「不都合な真実」が見え隠れしても、つい「見ざる・聞かざる・言わざる」でやりすごしてしまいます。それは自分ではどうしようもないという身勝手な距離感なのか、経験から学んだリスク回避の知恵かは分かりません。しかしいま、私たちが「サステナビリティ」や「持続可能な開発計画」を学び、経済活動に取り込むべきではと考えるようになったかのは、世界人口が既に地球の収容限界に近づいており、問題解決を急がないと、いずれ自らに累が及ぶからなのです。

「Accept International」というNGOは、早稲田の学生だった永井代表が、東アフリカの最貧国・ソマリアの海賊の社会復帰支援事業として立ち上げました。今では国連にも頼られ、ソマリア政府が正式に業務を委託しています。

若者の失業率が高く、頑健で優秀な若者は海の犯罪集団の勧誘を断れず、外国の大型商船やタンカーを襲撃してきました。日本も海上自衛隊を派遣し、海運会社は航路の大幅変更を強いられ、莫大なコストが生じました。こうした中、海賊たちと同世代の日本の若者が、獄中の元海賊たちに対話を試み、心を開いた囚人に技能訓練を施し、仕事探しや生活相談に応じているのです。危険を恐れぬ行動力には驚かされますが、こうした汗の累積が、ついには犯罪の温床を瓦解させつつあります。若者に安定した収入が得られれば、ソマリアも将来は犯罪国家の汚名を返上し、生産地や市場として生まれ変わる道が見えてくるはずです。そうなれば周辺諸国も教育やインフラ整備に国境警備費を振り分けられるでしょう。視野を拡げ、時間軸を延ばして世界を俯瞰しし、傷が見つかれば膿む前に止血・消毒し、治療してゆくことが、自分の身を守るうえでも最善の策であると思います。

●俯瞰して日本の社会課題を考える

俯瞰する力は国内の社会課題の解決にも有益です。30年近く問題視されてきた長距離ドライバーの労働環境。「2024年問題」として、今年から一日当たりの労働時間が規制されました。それは、“過剰ともいえる便利さ”を求めてきた私たちの暮らしを見直すことも意味しています。長距離輸送業は1990年代に規制緩和されて以降、運送業者が乱立し、過当競争や多重下請けの構造を生みました。長時間運転や過剰なサービス(荷物の積み下ろしや検品、ラベル張りまで)が常態化するにつれ、若者の応募は減り、ベテランドライバーは高齢化しました。日本の経済を維持するには、ドライバーの安全と健康を守り適正な報酬と労働条件整備にむけ、歪みを正すしかなくなったのです。物流を俯瞰し、荷主や配送先、運送業者が協議してサプライチェーン全体を最適化することに踏み出したのです。 

かつてトヨタの「カンバン方式」を支えた「ジャストインタイム配送」も、部品を積んだトラック群がトヨタの工場の周辺に行列を成し、公道を半分占拠した状態で、厳格に指定された「荷下ろし時間枠」に合わせるという慣行がありました。社会に迷惑をかける「外部不経済」が放置されることで成り立つ奇跡だったのであればそれは持続不可能です。

取引企業や、地域住民、消費者、行政や投資家など、多様な関係者のことをマルチ・ステークホルダーと言います。彼らの声に耳を傾け、社会的弱者を犠牲にせず、課題解決に向けて協働するのがサステナビリティです。問題を放置し、信頼関係が崩れてから対策を協議するよりは、俯瞰力を発揮して未然防止に協力する方がはるかに人間社会に相応しく、被害も少ないのです。俯瞰力に長けた経営者はこれからの社会に益々必要とされてゆきます。

戦争の種を未然に摘み取り、人間を創造的な生産に導くための俯瞰力は政治家の基本要件です。明日生まれる赤ちゃんが高齢者の仲間入りをする2090年まで、世界はどう変化してゆくでしょうか。誰も犠牲にしない、「no harmな世界」は、世の中を俯瞰し、課題を解決するために自ら汗をかく覚悟を必要としています。「流汗悟道」は、社会と自分の利益を統合し、信念と執念をもって実現する行動規範です。サステナビリティを知る機会を得た私たちは恵まれています。一人一人は微力でも、力を合わせて、行動するリーダーを増やしてゆきましょう。

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